ダメな議論

私的メモ(いまおきにの経済学者。)
コールドリーディングという説得術
ステップ1:ラポールを築く
ステップ2:ストックスピールで信頼を深める
ステップ3:悩みのカテゴリを探る
ステップ4:悩みの核心に迫る
ステップ5:未来の出来事を予言する


ラポール・・・「なんとなく肌が合う」、「気が合う」
相手の好みを知り、話をその人好みに合わせる
「話す相手の心を知り、自分の意見をそこに上手くあてがうこと」


ストックスピール・・・誰にでも当てはまる問いの連発
「職場(学校)などで本当の自分の実力を理解してもらえずに不満におもっていますね?」
「重要なミスを犯したとき、最後の最後には誰かに助けてもらって事なきを得た経験がありませんか?」


>「本当の自分の実力」など、自分さえにも分からない。
  ホームレスをしているわけでもなく、とりあえず生活できている相手はどこかで「助かっている」


第3,4ステップで宗教家や占い師は相談者が何に悩んでいるのかを対話の中から探り、最後にはそれを
ずばり当ててしまう。
その過程で重要な手法がサトルネガティブ(微妙な否定形)とサトルクエスチョン(微妙な質問)。


「今日の相談は、職場での人間関係というわけではないですよね?」
「最近、繰り返し感じる不安があったりしませんか?」


人間の記憶は曖昧で、印象深い出来事は細かく覚えていられるのに対し、そうでもない部分は短期間で忘れてしまうもの。
これをセレクティブメモリという


ステップ5の典型
「祖先を敬い、穏やかな気持ちで日々を送らないと、今年のあなたは大きな壁にぶつかるでしょう」
・・・条件付の予言
その条件は心構え、精神論など具体性のないものでなければいけません。


ニュース解説や多くの人が支持しているような常識的な議論には、以上のコールドリーディングの技法が暗黙のうちに含まれて
いることが少なくない。

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ダメな議論に気づくために
チェック1:定義の誤解・失敗はないか
チェック2:無内容または反論不可能な言説
チェック3:難解な理論の不安定な結論
チェック4:単純なデータ観察で否定されないか
チェック5:比喩と例え話に支えられた主張

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「本当の××はそんなものではない」という論法は
何にでも使える便利な批判方法。


・・・頭を一切つかわずになんとなく反論「っぽい」発言が可能となる。


「世の中に確かなものは何もない」
虚無論法
・・・この主張は正しいが、これを出発点にすると考えることを放棄する事と同義

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政策の評価
政策には効果ラグがある。
財政政策にしても金融政策にしても、何らかのプロジェクトを実施してから効果が現れるまでには時間がかかる。


小泉内閣構造改革路線について
効果ラグの問題は看過できない。
チェック1、2に基づいて→「構造改革」定義不明。
ゼロ金利政策批判・・・「預金しても金利がつかない」という批判
これは一方的。
ゼロ金利政策は住宅ローンをはじめとする借り入れを有利にし、多くの庶民の雇用主である企業を助けている。
金利に苦しむのは「労働所得や自営業収入よりも資産所得が多く、しかもその資産を(事業や株式投資ではなく)
預金で運用している」人に限られる
しかも90年代はデフレーション(財、サービスの値下がり)によって
「同じX万円の”つかいで”が増大する」という利益(正の実質利子率)を得ている

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「財政ハルマゲドン」の危機論


メディアでの財政に関する評論は、主に
「日本の借金がすごいことになっている」
財政破綻で日本経済は終わる」
「日本の税金は高い」


チェック1→国債・地方債残高は「日本の借金」ではない


 ある国の経済は、政府部門、企業部門、家計部門からなる。
財政赤字は政府部門の借金の増加分、財政赤字の累積額は政府部門の借金総額です。
お金のを借りるためには貸してくれる人がいなければなりません。
途上国などの財政危機では、日米欧など海外の経済主体が「貸してくれる人」だったため、
財政赤字=国の借金」のようなイメージが出来上がってしまいました。
しかし、日本政府の場合にはずいぶんと事情が違います。
国債60%は、郵貯簡保財政投融資政府系金融機関日本銀行による保有
続いて30%は民間の金融機関に保有されています。
郵貯簡保・民間の金融機関に預貯金をしている(つまりはお金を貸している)のは家計です。
政府系金融機関郵貯簡保からお金を借りているため、最終的な資金の元はやはり家計です。
このように考えると、日本の累積財政赤字は「政府部門の借金(債務)であり、民間部門の、
特に家計の資産(債権)」であることが分かります。


 これは今増税して1兆円の国債を返済(償却)したらどうなるかを考えればより明確になります。
日本国債保有者のうち、海外の経済主体による保有分は5%未満です。するとこの償却は、家計から1兆円を徴収して
家計に1兆円戻すのと同じことです。

 では、政府・企業・家計の3部門を連結させた「日本の借金」とは何でしょうか。例えば鈴木さんが株式会社佐藤商事社債
100万円購入しても、これは日本の資産、日本の借金ではありません。この場合、日本国内の経済主体である佐藤商事
とって100万円の負債であると同時に、同じく日本国内の経済主体である鈴木さんの資産であるため、
日本国全体の資産・負債を考えるときには相殺されてしまうのです。


 日本の借金とは、海外からの借り入れから海外への貸付を引いたものになります。
これを統計用語では対外純負債と呼びます。日本の海外純負債はマイナス185兆円(2004年末)、つまりは対外純資産が
185兆円ある状態です。つまりは、日本経済は海外に「お金を貸している側」なのです。
いまや日本の所得収支黒字(対外資産からの収益)は貿易・サービス収支黒字に匹敵する額になっています。


 国債が国内経済主体に保有されている(内国債である)ことをもって、国債はいくら大きくても
問題は無いという主張があります。しかし、これも正確な理解ではありません。資金が家計から民間企業に向かっていれば行われたで
あろう投資活動が、国債に回されたおかげで実行されなくなってしまったという意味での負担が確かに存在します。
このように、国債の累増には問題がありますが、それを「日本の借金が750兆円」とうたうことで危機をあおるのは、正当な
議論の手法とは言えないでしょう。
 また家計に例えることで日本の財政危機を分かりやすく伝えようとする論説記事を目にすることもしばしばです。次の作文をみてください。

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平成16年の国家財政

税収入    46兆円
国債    −18兆円
一般歳出  −48兆円
地方交付税 −16兆円
公債収入   37兆円
公債残高  483兆円


 上の表で示した国家財政を標準的な家計に例えると、その深刻さは明らかだ。月収54万円に対しローン返済が21万円、
消費が56万円とこの時点ですでに破綻している。にもかかわらず田舎へ20万円仕送りまでしている − このような
不足のために借り入れは毎月43万円にも上る。こうして積み上がったローン残高は6800万円!自己破産以外残された
途はないといってよいだろう。
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 現在、日本の国債は低利で消化されています。もしも「みんなはわかっていないが、日本の国債は将来デフォルト(債務不履行)する」という事実を自分だけが知っているならば、やるべきことはハルマゲドン論についての本を書くことではありません。
国債空売りして大もうけすればよいだけの話です。
 日本国債の格付け低下が大きな議論となったことがありますが、もし日本国債のリスクが高くなったと市場が認識したならば、
国債価格はとうに低下しているはずです。したがって、この話はメディアにとっては格好のネタになっても、市場でそれを
真に受けた人はいなかったと考えられます。


重税感に対して
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/hikaku.htm